<表7>相手船を視認していた操船者の注意

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<表8>相手船を視認していなかった操船者の注意

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ただ、漁船の場合航行の目的が操業であり、航行と操業が並行して行われるという特性をもっているから、bの注意は漁船にとっては死活に関するものであり、相手船を視認した後危険はないという判断をすればbにより注意が向けられるのは当然ともいえよう。
漁船以外の船舶ではbの対象は漁船ほど重要ではないから、aに多く注意が向けられるとみられ、ここに両者の注意の向け方の特色があると考えられる。
2、相手船を祝電していなかった操船者の注意
相手船を視認していなかった操船者の注意の状況を同様の区分に従ってとりまとめたものを表8に示す。
相手船を視認していないから、当面する危険はないという認識によってbおよびcが増えているとみられる。漁船以外の船舶では約七三%が航行上必要な注意を払っているが、このうち約八四%は他船に対する注意である。bが増えているのは、海図作業や甲板上の作業によるものであり、cについては前方のみ注意していたとか雑談等がその原因となっている。
漁船については、航行上必要な注意を払っていたものが約三一%で、このうち約七七%は他の航行船舶への注意である。bの増加は既に述べた漁船の特性によるものといえよう。cの増加は漁船以外の船舶と似たような内容である。
相手船を視認していない船舶の注意は直接の対象ではないが、参考までに取り上げてみた。注意の向けられている対象は、多くは前述と同様に航行上必要な対象であり、操船者として払うべき注意を怠っていたということよりも、衝突の危険のある相手船になぜ注意が及ばなかったかという問題としてとらえられると思う。
3、操船者の注意を左右するもの
1に延べたように、操船者が相手船を視認した後、差し迫った危険はないという判断によって注意が相手船から離れ、他の対象に向けられている。もし危険が目前にあるならば、これから注意をそらすことはあり得ないだろう。操船者は航行中の環境において他の航行船舶を含め、多様な事象の中に自船の安全な航行を阻害する対象を発見し、その危険の程度を比較判断し、対応すべき対象と措置を決定していかなければならない立場にある。
従って、操船者の注意は、当然のことながら自船の安全な航行に関し、より影響が大きいと判断した対象に向けられることになる。再び一をみると漁船以外の船舶の操船者が相手船を視認し、状況について判断をした後、相手船以外の対象に向けた注意の約六三%は区分aの航行中常に注意を払う必要のある対象に向けられている。
区分dについても相手船との関係に危険はないという判断が根拠になっており、相手船から離れた注意は他の必要と認める対象へ向けられるであろうから、内容的にはaと同じと考えてよいだろう。
区分bについても海図作業等航行上必要なものであるから、操船者は相手船との衝突の危険の度合いを推し量ったうえで、これらの対象に注意を向けたとみられる。漁船の操船者についてもその航行特性から区分bの割合が多いが、注意の向け方については前述のような傾向をもっているといえるだろう。従って、操船者としては、正しい判断をしたという認識のもとに相手船から注意をそらせ、他の対象に向けだということであろう。両者ともに区分cの割合が約五%ということは、このような事情を裏づけるものといえるのではないだろうか。
このようにみてくると、見合い関係にある船舶の操船者が相手船から注意をそらせ他の対象に向けるのは、相手船を視認した後の判

 

 

 

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